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第461話

「梅のにおいだな」 優登の受験にドキドキしていて少し季節を忘れていた三条は、近所だというのにそのにおいを漸く思い出した。 マスクをしていてはそのにおいは淡い、なんてのは言い訳だ。 「本当だ。 良いにおいです」 「今、気付いたって顔だな。 お兄ちゃんも大変だ」 「…お恥ずかしながら」 「恥ずかしくなんかねぇよ。 良い兄弟だな」 長岡に、そう褒められると嬉しい。 大好きな弟だから。 うんと努力をすることが出来る弟だから。 「大好きな弟ですから」 「うん。 なによりだ」 梅の花を見ながらデートをし、少しだけゆっくり歩いて駐車場へとやって来た。 後ろのドアを開けられ、2人で乗り込む。 どうやら今日は接触もありらしい。 「まずは、バレンタインのチョコ、ありがとうございました。 すげぇ美味かった」 「良かったです」 「で、これはそのお返しです。 受け取ってください」 バレンタインデーのシックな包装とは異なり、白を貴重とした華やかな紙袋の中にはキラキラとした輝きが閉じ込められている。 何度もらっても嬉しい、飴玉。 「ありがとうございますっ!」 とびきりの笑顔を向ける三条に、長岡も穏やかなものを返す。

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