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第465話

「気を付けて帰れよ」 「もうそこですよ」 「それでもだよ。 家の前で転んだら、こんな時間に家出てんのバレんぞ」 「流石に転びませんって。 でも、瓶を割りたくないので気を付けます」 「お利口だな」 頭を撫でる手を両手で握る。 惜しいのはお互い様だ。 いくらお互いの部屋で通話を繋げていても、やっぱり実際に会うのとは違う。 当たり前だ。 その当たり前の違いが、少しだけ、ほんの少しだけ寂しい。 「正宗さんも、気を付けて帰ってくださいね」 「ん。 帰ったら連絡するから」 「待ってます」 それでも、同じ時間を共有するように繋げるんだ。 それしか出来ないから。 別れの瞬間はどうにも寂しさが顔を覗かせて駄目だ。 つい我が儘が口を衝きそうになる。 それも、今日はうんとしあわせだったから反動が大きく離れがたい。 それが分かるのか長岡は僅かに身を屈め声を潜めた。 「それと、遥登の都合の良いに来いよ。 抱いてくれんだろ」 自分にだけ聴こえる声にカァァっと頬がアツくなる。 抱くというか、抱かれるというか、確かに頑張ると言った。 「楽しみにしてる」 ポンッと後頭部を抱き寄せられ、長岡の優しさを身に染み渡っていく。 大きくてあたたかい人。 すべてをすっぽりと包み込んでくれる、もても優しい人だ。 「今日は、沢山ありがとうございます」 「俺もありがとな。 残りのチョコも大切に食う」 チョコレートだけではないが、長岡は頭が良い。 きっと分かっていてわざと口にしないんだ。 その優しさに感謝し、あと少しを引き伸ばした。

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