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第469話

昼食を摂った後、散歩を兼ねて商店街へと行く。 時間なんて関係なく昼間でもシャッターが閉まったままも店が半数だ。 そんな商店街の中にある呉服点に顔を出せば、制服のお受け取りですか?と愛想の良い笑顔が向けられた。 「はい。 三條優登です」 「この度は、ご入学おめでとうございます。 三條様ですね。 お待ちください」 三条も自身の制服を受け取る際にしか利用したことのない店舗。 寂れたと言ってしまえばそうなのだが、それでも呉服らしいの華やかさが残っている。 鮮やかな色彩の美しい着物。 帯も繊細な刺繍が施されており、蛍光灯の灯りを艶やかに反射し返している。 髪飾りも華やかな物から、さりげない美しさが際立つ物から様々だ。 格式高く思えるが、一生物。 子や孫、更にその子供へと受け継いでいくと、もても美しい衣装。 美しい伝統だ。 「高そ」 「良い着物だもんな。 ここのはポリエステルじゃないし、しっかりした値段だよな」 「こんな高そうなの着てよく外歩けるな。 女の子ってすげぇ」 「成人式? 男だって袴穿くだろ」 「穿いてた人いた?」 「行ってねぇの知ってんだろ」 「そうだった」 兄弟で楽しく話していると、持ち手の付いた大きな箱を抱えた店主がやって来た。 「三條優登様。 ご確認お願いいたします」 「はい」 箱の中にはジャケット、スラックス、ネクタイ、学校指定の征服がビニールに包まれ入っていた。 懐かしいと思うには、あまりに時間が経っていない。 だけど、楽しかった青春。 田上や吉田、知佳ちゃん未知子ちゃん、長岡とも出会えた。 もう1度あの頃に戻ってみたいとも思う。 優登も、そんな高校生活を送って欲しい。 願うことは当たり前の日々を当たり前に過ごして欲しいということ。 「ありがとうございました」 「素敵な学校生活を楽しんでください」 支払いを済ませ2人で店を後にする。

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