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第472話

アブラナ科の花が咲き、風が吹くと黄色がふわふわと揺れる。 椿の花が落ち、梅が溢れる。 この季節は美しい表現が多い。 春の色は夏や秋ほど鮮やかではない。 においも控え目だ。 だけど、はっきりと分かる美しさがある。 隣を歩く恋人とならその美しさは尚更だ。 「ん? どうした」 「綺麗だなって見てました。 春は色が起きる季節ですね」 「色が起きるか。 そうだな。 ほんの少し前まで土ん中だったんだよな」 小さな種から芽が息吹くのもすごいことだが、その芽が育つとこんなにも綺麗な色の花を咲かせるのも驚きだ。 長岡は、菜の花を見ながら三条の言葉の美しさを噛み締める。 「やっぱり、遥登が好きだ」 「え…、急にどうしたんですか…」 「思っただけだ。 深い意味はねぇよ。 けど、そうだな。 遥登は?」 「俺も、正宗さんのこと好きです…」 本当にどうかしたのかと繋いでいる方とは反対の手で腕に触れてきた。 けれど、長岡は眼を細めるばかり。 「俺以外に目移りしちゃ、寂しいですよ…?」 「目移りって…。 しねぇよ。 遥登しか見えてねぇ」 嫌だと言わない辺りが三条らしい。 けれど、随分と自分の気持ちを素直に伝えてくれるようになった。 時間はかかったが、その分嬉しさも一入だ。 本当に?と小首を傾げそうなその耳元へと唇を寄せる。 「じゃあ、明日、嫌ってほど解らせてやる」 「え…」

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