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第512話

「ワイシャツも良いですね。 正宗さん、夏でもジャケット着てるからなんだか色々染みてそうです」 「なんでもやるよ。 今度、好きなの選びな。 ネクタイもやる」 「やった!」 にこにこと屈託なく笑う恋人に触れたい。 もっと。 もっとだ。 隔たりなんてぶっ壊したい。 恋人のように良い子じゃない。 腹の中はドロドロで、恋人を貪りたいと常に思っている。 「遥登」 「はい」 「もっかいキスさせろ」 口を手で塞ぐとちゅっとまた唇をくっ付ける。 流石に弟達から楽しいことを奪いたくない。 すぐ下の弟は、この春希望していた高校に合格したばかり。 それも、兄の母校だ。 つい恋人の姿が重なってしまう。 幼い顔をした恋人。 いや、出会ったばかりは教え子だった。 楽しい春を過ごして欲しい。 これも、また本音。 結局のところ、自分は我が儘なんだ。 恋人をもう傷付けたくない。 傷をつくって欲しくない。 そう思うのは確かだ。 だけど、三条の周りを守るためには我慢を強いらせるしかない。 世界は少しずつ様子をかえていく。 沢山の束縛が緩んでいき、自由が戻ってきた。 それでも、その日までは三条を悲しませる訳にはいかない。 なにが正しいかなんて、振り返ってみなければ分からない。 今の自分の行いが正しいかなさえ分からずやっている。 それでも、今日も元気に笑ってくれる恋人をこうして直接見られるのは最高の幸運だ。 「覚えたのは正宗さんもじゃないですか」 「大人は狡いんだよ。 それに、今日は遥登の誕生日だからな」 恋人を甘やかすのだけは、やめられない。 だって、世界で1番大切な子だからな。

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