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第524話

気持ちの良い風が吹く中、弟と手を繋いで帰る。 ずっと家に入ると分からないが、彼方此方に随分と緑が増え花も咲いている。 みんながみんな、夢を叶えられる訳ではない。 努力も報われないことの方が多い。 それでも、努力し手を伸ばすのは夢がキラキラと輝いて見えるから。 「綾登は、おっきくなったらなにになりたい?」 「とまと」 「トマトかぁ。 真っ赤で格好良いし美味しいもんな」 「うんっ!」 だけど、もっと単純でも良いだろう。 格好良いから。 好きだから。 それも、ちゃんとした理由だ。 憧れたから。 日本語の美しさが好きだから。 あの、傷さえも乱反射としてキラキラ輝かせる煌めきと、汚れた裾が目に焼き付いて離れない。 「はう は?」 「俺は、国語の先生」 「だから、おべんと?」 「勉強だよ」 「べんきょ? がんばてね」 「ありがとう。 頑張ったら、いっぱい遊んでくれる?」 「いーよっ!!」 「やった。 頑張るな」 繋いでいるのとは反対の手がグーの形をして差し出された。 最近優登としているグータッチだ。 ゴチっと拳同士をぶつけると綾登は満足そうに笑った。

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