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第527話

「ふあふあ! おいしいねぇ」 「良かった。 沢山食べてな」 あの頃は、母さんがいない土曜日が少しだけ寂しかった。 兄は大好きだし、優しいし、一緒に沢山遊んでくれるけど、でも、母親はまた別の存在だった。 その日は、両親共に仕事で、兄弟は土曜日で学校が休み。 いつもなら親がいなくて自由に出来て楽しいはずの留守番だったが、ちょっとだけ寂しくて兄にべったりくっ付いていると、兄はそうだ!と悪戯っぽく笑った。 みんなでご飯を食べる机の上にホットプレートを置くと、絶対に触らない約束をしてホットケーキを焼いてくれた。 勿論、ミックス粉だ。 だけも、目の前でふかふかと膨らむ生地に目を奪われた。 ホットケーキだって何回も食べた。 今更だったのかもしれない。 だけど、その瞬間からお菓子作りに夢中になった。 普通のなんでもない日が、すごく楽しい日になった。 兄がみせてくれた魔法だったんだ。 「はう、みて!」 アイスが真ん丸になるところや、ソフトクリームが渦を作るところを見ては喜び、ケーキが沢山並ぶショーケースを見ては目を輝かせた。 兄が教えてくれたことが今も自分を作り上げている。 「俺は、誰かを笑顔にしたい」 「にこにこ?」 「そう。 にこにこさせてぇの」 「ちゅてきね」 「だろ」 ふくふくした頬を膨らませて、母親みたいなことを言う弟の肉を揉んだ。 そこに弟も含めれているなんて分からないんだろうな。

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