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第529話

反対を向きながら服を着替える。 シャツに頭を入れると、長岡の良いにおいが濃くなる。 まるでベッドの中にいるみたいだ。 ……さいっこう 頭、出したくねぇ 末弟のような格好のままでいたいが、長岡が不審に思う。 思っていることを言えば、長岡なら笑って受け入れてくれるが、そうではない。 照れだ。 恥ずかしいんだ。 22にもなって子供みたいだと思われるのが。 襟ぐりから頭を出すと、さっと身なりを整えた。 「うん。 似合うな。 それにしても、サイズが合うようになったな」 「はい」 そう言われ、あの日──はじめてこの部屋に泊まったあの日のことを思い出す。 目覚めると知らない部屋で、知らない服を着ていた。 あの日からどれだけの時間が経ったか。 どれだけ関係がかわったか。 あの日の2人は知ることの出来ない今日は、とびきりにしあわせだ。 きゅっと上がった口端がしあわせだと伝える。 「でっかくなったな」 「恋人にもなりました」 「っ!」 恋人。 家族だ。 指輪をもらって、“これから”を交換した。 責任をもってしあわせにしたいと心の底から思う、ただ1人の人。 「生意気言いやがって」 「本当のことですよ」 くしゃくしゃと頭を撫でてくる長岡の顔は、とてもしあわせそう。

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