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第543話

大きな口がお握りに齧り付く。 そして、頬を嬉しそうに動かす。 食べるのが好きなんだと分かるそれらに、長岡のそれも釣られてしまう。 好きな子が、腹一杯飯を食えて、あたたかいふとんで寝れる。 それも、その子が大切にしている家族の元で。 それは、確かな安心だ。 少しだけ寂しくもあるが、その外泊のかわりに毎週末デートをしている。 外でデートなんてしてこなかっただけに、新鮮で楽しい。 しかも、三条の生まれ育った町なのだから感慨深ささえある。 どうせなら、楽しいことに目を向けた方が楽しい。 そんなことを思いながら画面を見ていると、三条の顔がきゅっとした。 「中身、梅か」 『はい。 酸っぱいけど、美味しいです』 「疲労回復するからな。 今の遥登には丁度良い。 やっぱり、弟は優しいな」 『名前の通りに生きてます』 「それは遥登もだろ。 いくつも芽ぇ出して、ちゃんと育ってる」 三条は、そうだと良いなと言ちた。 自分自身のことは、自分の目では見えない。 鏡を使えば見えるが、それは“鏡に映った”自分でしかない。 自分の評価はそんなものだ。 他人の目の方が正しいこともある。 「俺が言ってんだぞ。 そうに決まってる」 『正宗さんのその自信のあるところ好きです。 本当にそう思えます』 「俺の生徒はみんな出来が良いんだよ。 自慢の生徒達だぞ」 目の前の恋人の顔が生徒の顔になる。 そして、しっかりと頷いた。

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