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第545話

「でっかっ」 三条が大きな欠伸をすると、向かいの席で朝ご飯を食べている綾登がそう言った。 「眠くて…」 「ねむい?」 「少しだけ。 でも、ご飯は美味しい」 勉強をしているとはいえ、夜更かしは夜更かしだ。 朝型に切り替えた方が良いも理解している。 だけど、三条には深夜の勉強の方が捗る。 そんなことを言えば、真似したい年頃の末っ子は夜になっても、まだよ、とくっ付いて離れないだろう。 なので、話を逸らした。 「綾登、スープ美味しいな」 「とっても!」 「ウインナーは?」 「だいすき!」 パンをもぐもぐと頬袋に詰めながら、ニコニコした顔を見せる。 母親が出勤の準備で席を離れているのでご機嫌に越したことはない。 クズクズになると、長男とお家にいると言い始めてしまうからだ。 「ちーずも、すき」 「チーズ好きだよな。 好き嫌いしないですごい」 「えっへん!」 「ほうれん草食えないくせに」 夏服の制服に身を包んだ次男がリビングに顔を出すと、綾登は膨れた。 まぁ、確かにほうれん草を目の前にした綾登は口をぎゅっとする。 優登が蒸しパンに混ぜ込めば喜んで食べるのに不思議だ。 子供の敏感な舌は、シュウ酸やえぐ味を察知する能力が高いのだろうか。 それとも単に甘い物が好きか。 どちらにせよ、そのことを優登は密かに喜んでいる。 「たべれるもん」 「ほんとかよ」 「はう、いじあるする」 三男は、いーっと威嚇し、次男はその頬を潰した。 朝から可愛い兄弟のやり取りだ。 そのまま次男は冷凍庫から水筒に詰められるだけ氷を入れ、それを持って手を振った。 「いってきー」 「いってらっしゃい」 「ちゅっちゅっしょー、きをつけるのよ」 「綾登もなぁ」 母親の真似をする綾登。 なんだかんで仲が良い2人だ。

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