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第553話

麺の1本までしっかりと食べ終え、手を合わせた。 三条の当たり前の姿がすっかり移った。 「ご馳走さま。 まだ照れてんのかよ」 『……なんか、今日は…』 「ははっ。 じゃあ、もっと照れさせちまおうかなぁ」 『え…』 気分転換は大切だ。 勉強でも、勉強以外でも。 気持ちがかわれば、また違った気持ちで向き合える。 「愛してるよ。 はぁると」 『……俺、も…です…』 「もっと俺のこと見てくれよ。 目ぇ。 ん、良い子」 『……顔が…良い………』 「はははっ。 遥登っぽいこと言ってんな」 照れた顔も良い。 勉強をしている時の真面目な顔も良いが、やっぱり三条にはやわらかな表情の方がとてもよく似合う。 「遥登も格好良いよ。 目標に向かって頑張ってて、すっげぇ格好良い」 『そんなの、当たり前のことですよ』 「遥登にとってはな。 でも、その当たり前を当たり前に出来るのは格好良いことだ。 みんながみんなそう出来る訳じゃねぇだろ。 だから、それが当たり前だって思って向き合える遥登は格好良い。 俺の自慢だよ」 今は踏ん張らなくてはいけない時期だ。 沢山助走をつけ、もうすぐ飛び出すんだ。 寂しくもあるが、嬉しくもある。 大きな世界へと羽ばたくその姿を隣で見ることの出来る喜びは、きっとどんなことより嬉しい。 三条が飛び出す世界は、良いものばかりではない。 黒くて、時に命すら失われる世界だ。 だけど、この子がその世界にいるのを見たい。 この目で。 肩を掴まれるまで、あと少しだ。

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