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第559話

境内の隅のベンチに腰掛け2人きり。 今日は黒猫もいない。 本当に2人だけだ。 隣を見ると大好きな人がいてくれる。 ただ、それだけが嬉しい。 「美味いな」 「はいっ」 そうして濃厚な味のアイスクリームに舌鼓を打つ。 いつものガリガリの氷が入ったアイスやパプコも美味しいが、この小さくて高いアイスも美味しい。 材料全てが濃厚で、しっかりと美味しい。 高いから美味しいという感覚はないが、美味しいから高いは納得してしまうのは何故だろう。 カリカリくんだって美味しいのに、ずっと安い。 「美味そうな顔してるもんな」 「そんな顔してますか?」 「あぁ。 美味いなぁって顔してる。 だから、沢山食わせたくなんだよ」 祖父母みたいだけど、なんだか嬉しい。 「美味しいです。 こっちも食べてください」 「遥登も、こっちも食え。 ほら、スプーン貸せ。 食わせてやる」 「あっ」 長い指がスプーンを掴むと、大きく掬った。 そんな大人でも贅沢な食べ方を…!と思っていると、そのままの大きさのアイスが目の前の差し出される。 「ガッといけ」 「流石に贅沢過ぎます…。 これだけで50円しますよ」 「30円だろ。 それに、公務員の給料なんて、県民の皆様に還元してなんぼだろ。 なら、遥登に還元してぇ。 ほら、溶けるぞ」 今にも溶けたアイスを唇に塗ったくり、卑猥なことを言いそうだ。 ここは素直に口を開く。 ぱくっと口にすると、自分の物とはまた違う美味しさに顔が綻んだ。 「美味しいですっ」 「だろ。 ほら、もう1口」 「こっちも食べてください」

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