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第566話

階上に到着するとドアが開いた。 顔を出すのは、先程手を振っていた恋人。 待ちきれないのはお互い様らしい。 「お疲れ」 「疲れてなんて…」 両方の腕を拡げてみせた恋人は、世界で1番好きな顔で、声で、名前を呼んでくれた。 「遥登」 自然と足が動く。 手がしがみつく。 ブンッブンッと揺れる尻尾もそのままに抱き付いた。 「出しきってきたか」 「はい」 「ん。 頑張った」 汗をかいた襟足を撫でられても、この心地好さに動けない。 動きたくない。 今は、恋人に甘えたい。 それが分かるのか、長岡はなにも言わずによしよしと撫ででくれる。 「喉乾いたろ。 冷たいコーヒーあるぞ」 「良いんですか…?」 「勿論。 遥登と一緒に飲みてぇから待ってた」 「ありがとうございます」 「俺がそうしてぇから待ってただけだろ」 「それでも、嬉しいです」 埋めていた肩から顔を上げると、マスクから覗く頬を撫でられた。 「今日はしこたま甘やかしてぇから、素直に甘やかされとけ」 いつものことなんじゃ…?と思ったが、その言葉は飲み込んだ。 だって、そうしたいから。 今日は、沢山長岡に甘えたい。 「あ、でも、浮気してたのは寂しかったなぁ」 「猫ですよ」 「猫でも」 「1番大好きなのは正宗さんです」 「気分良いな。 ほら、靴脱げ。 早く涼しい部屋に行こうぜ。 2人っきり」 ドキッとする言い方に暑いだけではなく、顔が赤くなった。

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