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第567話

手を洗う隣で長岡はお揃いのグラスに氷を詰めている。 それだけで喉が渇いてくるようだ。 「甘い方が良いか? 頭使って疲れたろ」 「じゃあ、お言葉に甘えて、甘くしてください」 「2つ?」 「流石に1つでお願いします」 ガムシロップを1つと、冷蔵庫で冷やされたコーヒーを注ぎ入れる長岡。 スッとした姿が格好良い。 そんな恋人に、おずおずと声をかける。 「背中、良いですか…?」 「前でも背中でも、どっちでもどうぞ」 ぎゅっと抱き付くと良いにおいがする。 安心する。 落ち着く。 緊張が溶けていく。 試験で緊張してたのか、筋肉が緩むのが分かった。 一次試験ではあるが、これで来年が決まる。 とても大きな岐路だ。 「手ぇ、腹に回せるか」 「はい」 言われた通りに腹へと手を回すと、手を握られる。 冷たい物に触れていた手はいつもより冷たい。 だけど、ちゃんと長岡の手だと分かる。 「背中あったけぇ」 「暑くないですか? 今更ですけど、汗くさかったり…」 「大丈夫だって。 においもしねぇよ」 「本当ですか?」 「ほんと、ほんと」 嘘でも良い。 今は、その優しさに甘えさせてもらう。 頬をくっ付け恋人の体温を堪能していると、握られた手が動いた。 近くにいると触れてくる癖があるので、その類いだと気にも止めずにいると、小さなリップ音が響いた。 「っ!!」 薬指に感じるやわらかな感覚。 こんなの、試験の緊張なんて忘れてしまう。

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