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第570話

目を閉じると、いただきます、と小さく聴こえてきた。 続いて、ゴクッと嚥下する音。 「っ!」 空気が動く。 三条の喜んでいる時の空気だ。 やわらくて、キラキラ、ピカピカしている。 この空気を纏う恋人は、世界で1番良い顔で笑うんだ。 その時のにおいまで思い出せる。 そして、ご機嫌な声。 「正宗さん、美味しいです!」 そう。 この声だ。 頭の中と同じ声に優越感が沸く。 「美味いか。 良かった」 「……目、開けても良いですよ…」 目を開くと、また抱き付いてきた。 抱き付けば顔を見られる心配がないからか。 だけど、心地良いあたたかさが嬉しい。 「このコーヒー、すごく美味しいです」 「気に入った?」 「はいっ」 「じゃあ、いつでも飲みに来い。 淹れとくから」 「本当に、来ちゃいますよ」 「うん。 来てくれ」 顔の横にある頭に頬をくっ付ける。 本当に来てくれ。 気配を残してくれ。 それを探しながら通話をするから。 顔を上げる恋人の顔が、とても大人びて見える。 試験を受け、来年のことを強く考えるようにかったからだろうか。 そんな顔に触れた。 「次はバニラアイスも用意しとく」 「っ!!」 甘やかされてるのは、どっちだろうな。

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