572 / 729
第572話
ご機嫌な長岡の運転で、自宅へと送ってもらう。
申し訳ないという思いと、長岡と一緒に居られて嬉しいと思う気持ちが、鬩ぎ合う。
「デート、楽しいな」
だけど、そんなことお見通しの恋人は綺麗な顔で微笑んだ。
本当の顔だ。
それが嬉しい。
だから、三条も本物を返す。
「俺も、正宗さんと一緒なの楽しいです。
それに嬉しいです」
「可愛いこと言いやがって。
襲うぞ」
「ここでは…」
「じゃあ、青姦すっか?
遥登、好きだろ」
「好きじゃ…っ」
「ねぇの?」
「…………人並み…、です」
クスクスと笑う声も心地が良い。
例え、からかわれていても。
低くて落ち着く声に名前を呼ばれるたびに、胸がきゅっとする。
良い名前だと自画自賛だ。
命名してくれたのは両親だが。
赤色に停車すると、後部座席から手を伸ばして長岡に触れた。
「正宗さんと、だからです…」
「殺し文句だな」
青色へと変わった瞬間、自分の手に大きなものが重なった。
一瞬だけ。
だけど、確かに重なった。
今日は、そんな小さなこと1つでもとても嬉しい。
ともだちにシェアしよう!