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第575話
「はぁう」
「ん?
花火するか?」
試験が終わったら遥登としたいとスーパーで買ってもらった花火のセットを持った綾登にそう言えば、とびきりの顔で頷いた。
「とーと、しよ」
「よし。
しようか。
バケツ持ってくるから待っててな」
庭へと面した窓を開け、そこに並んだサンダルを突っ掛け空を見上げた。
キラキラ輝く星は雲に隠れているが、風が気持ち良い。
この風も上旬だけ。
梅雨が明けたら夜の空気さえ暑くなるんだ。
脚にくっ付いてくる小さな頭を撫でながら、ぼーっとする。
頭の中を出しきったせいか、脳がぽやぽやしはじめた。
今日は、風呂を済ませたら早めにふとんに潜ろう。
「バケツ持ってきたよ」
父親の声に意識を戻す。
「できる?」
「出来るよ。
しような」
「火は危ないから、触らないよ。
ぶつけるのも駄目。
投げるのも駄目。
火傷は痛いし、火はこわい。
火をつけたい時は、父さんでも遥登でも大人に声をかけるんだよ。
約束だよ」
「あいっ」
「うん。
良い返事」
父親と一緒に蝋燭から火をもらい、花火を咲かせる。
火薬のにおいと、目に沁みる煙。
夏のにおいだ。
「きれー!」
「綺麗だな。
お、色が変わった」
「あかだよ」
久し振りに見る花火は、とても綺麗だ。
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