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第579話

目標だと言ってもらえるようになってから、背筋が伸びた。 教師の仮面を被っている時だけではない。 恋人の顔をしている時以外の多くの時間すらだ。 恥ずかしい姿は見せたくないから。 だけど、無理した姿も見せたくない。 だって、あの子ならその姿さえお手本にしてしまう。 それに、倒れでもして心配もかけたくない。 それこそ今このタイミングは間が悪過ぎる。 「お疲れ様です」 「お疲れ様です。 廊下すごい暑いですね。 廊下も冷房点けば良いのに…」 「窓の外も30度越えてますからね。 締め切ってサウナ状態よりはマシですけど、風も温風ですしね」 教科準備室へと帰ってきた五十嵐と古津は、半袖のYシャツを煽りシャツの中へと涼しい風を取り込んだ。 流石の長岡もジャケットを脱いでいる。 なんとか現象だ、異常気象だのテレビでは言うが、既にここ近年は異常なほど暑い。 自身が小学生の頃は、水温が規定に満たないのでプールの授業は禁止などということもあったが、今は水温が高過ぎると聞く。 たった25年ほどでこれだ。 25年。 恋人はまだ生まれていなかった時の話だ。

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