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第580話

「眠そうだな」 「眠くないです…」 「車で少し休もうぜ。 暑いしよ」 いつものように週末のデートをしているのだが、三条は眠そうだ。 久しく駄々を捏ねる恋人を見ていないので見たい気持ちもあるが、眠そうな顔をしているので休ませたい気持ちもある。 勉強ばかりの毎日だ。 勉強して、食事をして眠って。 そんな毎日のな中でも、自分との時間を大切にしてくれている三条。 勿論、恋人として会えるのは嬉しい。 その気遣いも。 だけど、体調が整ってこその勉強だ。 そこが本末転倒なら意味はない。 それに、連日の真夏日。 気温だけで体力が消耗されていく。 キャップの上から頭を撫で、駐車場へと連れていく。 「今日は何時間勉強した?」 「たくさん…」 「沢山か。 頑張ったな。 すごいな」 三条が弟を褒める時のような口調でそう言えば、眠そうな目が此方を見上げた。 「……ちょっとだけ、眠いかも、です」 「一緒に昼寝するか。 贅沢だろ」 コクッと上下した頭に少しだけ安心する。 駄々捏ねは見られないが、体調を優先出来る。 それに、恋人との昼寝──時刻は夜だが──は、本当に贅沢だ。 じゃあとばかりに手を繋いで誘導すると、三条はマスクの中で欠伸をした。

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