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第583話

隣を歩く恋人は、マスクをしていても分かるほど大きな欠伸をした。 「眠いですか? もう家も近いですし、1人で帰れますよ」 「俺が一緒にいてぇの。 それとも、そう思ってるのは俺だけ?」 「そんなことは…っ」 「なら、送らせてくれ」 狡い言い方だ。 だけど、同じ気持ちで嬉しい。 「なにか飲み物買いましょう。 あっちに自販機ありますから」 そう言いながら、手を引き近くの個人商店脇の自動販売機へと案内する。 眠気のせいで帰り道に万が一があるのがこわい。 一見、欠伸が止まらないだけに見えるが、眠い可能性も大いにある。 「なに飲まれますか?」 「俺が買う。 遥登こそ、なに飲みてぇ?」 「正宗さんの分は俺が買いたいんです」 「…分かった。 なら、コーヒーご馳走してくれるか」 「はいっ」 ガコッと吐き出される飲み物を取り出すと、続けて同じものが吐き出されてきた。 「え…?」 「遥登の分。 それ飲んで思い出せよ」 甘くないコーヒーの味は……。 かぁっと赤くなる顔に、長岡は満悦そうな顔をする。

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