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第588話

長岡のにおいの移った服を時々クンクンとしてしまう。 自身の汗のにおいもするが、良いにおいだ。 長岡からプレゼントにもらった服とはまた違った良さに、頬の筋肉が緩んでしまう。 「ほんと…」 「え?」 突然、前髪をぐしゃぐしゃと撫でられた。 「襲いてぇ」 「え…?」 「食い頃だろ」 「なんで…、急に…」 「急じゃねぇよ。 いつも思ってる。 早く食いてぇって」 「…っ」 気温以外の意味でも、ジワジワと汗をかく。 直接的な言い方が恥ずかしい。 けれど、その気持ちは三条も同じ。 早く触れたい。 なににも憚られてたくない。 ずっと思っている願いだ。 「ま、まだ焦らすけどな」 「……」 繋いだ小指を離すと、今度はしっかりと繋ぎ直した。 「だから、早く追い付いてこい」 あたたかな風が2人を撫でる。 どんな時だって立ち向かわなくてはいけない時がある。 三条にとっては、それが“今”。 先を歩く恋人が待ってくれている先へと早く歩みを進めたい。 その為の用意を今、まさにしている。 「楽しみにしていてください」 「お、強気だな」 「長岡先生の教え子ですから」 そう。 それは、自信だ。

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