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第589話

遠回りをして寄ったコンビニでアイスを購入し、行儀悪く食べながら道を歩く。 好きな人となら、そんなことでさえ嬉しい。 しかし、この気温にアイスを早く食べなければ溶けてきて大変だ。 「冷たいもんはいくらでも食えるよな」 「はい」 「遥登って、あんま腹下してるイメージねぇよな」 カリカリくんを齧りながら長岡はマジマジと隣を見下ろした。 「人と比べたことはないですけど…、」 「まぁ、そうか。 俺も他人なんて知らねぇしな。 でも、俺の精液でも腹下さねぇだろ」 「声…っ」 「誰もいねぇよ」 確かに道路には誰も居ないが、そういう問題ではない。 この暑さの中で窓を開けている家こそ少ないが、夏だからこそ開放的な学生がいるやもしれない。 寧ろ、いつでもどこでも撮影可能なスマホを持ち歩いている学生──それも長岡の赴任先の生徒さん──がいたら一大事どころの話ではなくなる。 「続きは、車の中で…」 「分かったよ」 「……俺が追い付くまで、先生でいてください」 隣に並びたい。 スタートラインに立った時の目標。 その為にも、長岡には教師でいてもらいたい。 勿論、長岡が他の職業の方が良いと言えば止めはしないが。 「安心しろ。 古典に触れられる職業なんてそうそうねぇからな」 「塾の先生とか…」 「公務員の安定忘れんな」

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