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第590話

「でも、まぁ、あれだ」 歯切れの悪い声に視線を食べ途中のアイスから隣へと移す。 「今は、教師やってて良かったって思ってる」 『教師なんて、古典に触れ続けたいだけで選んだ進路だ。 それ以上も以下もねぇよ』 1歩、足を踏み出せば歩ける。 どんな草っ原でも歩けば道が出来る。 その道が、誰かの道に繋がる。 それって、すごい奇跡だと思う。 同じ方向を見なければ道があることに気が付けない。 足元を見なければ、先を歩く人が分からない。 溢れた種だってそうだ。 気が付けた。 それが、長岡で良かったと思う。 そして、長岡本人が咲いた花を見たことが嬉しい。 「なぁに、笑ってんだ」 「元々こんな顔ですよ」 「もっとゆるゆるだろ。 今の顔は、にやにやしてる」 「マスクしてて分かります?」 「何年見てきてると思ってんだ」 肩をぶつけながらしあわせそうに歩くだけで、この世界はとても色鮮やかに見える。 眩しいほどに。 「ずっとです」 「ずっとだな。 だから分かるんだよ」 「へへっ」

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