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第594話

急ぐ足が向かうのはいつもの神社。 すぐに待ち人は此方に気が付いた。 「お、遥登。 こんばんは」 「正宗さん、こんばんは。 お待たせしました」 「今来たばっかりだよ。 それより、どうした?」 どんな顔をしてくれるだろうか。 どんな声を聴かせてくれるのだろうか。 胸がドキドキする。 それをシャツの上から首にかけた指輪を握りながら落ち着ける。 「一次試験、通過しました」 長岡の表情がパッとかわった。 あの時みたいな顔だ。 教師になりたいと伝えた時みたいな顔。 だけど、それはすぐに綻んだ。 「やったなっ!」 ぎゅぅっと抱き締められる。 密だとか、そんなことはもう頭にない。 ただただ力強く抱き締められる。 耳元で、おめでとう、すごいな、頑張ったなと何度も言ってくれる。 そんな優しい人の茶けた髪に頬を擦り寄せた。 こんなに喜んでくれることが嬉しい。 『自分のことのように』なんて表現があるが、この場合は『自分のこと以上に』だ。 「うわっ」 今度は抱き上げられる。 いくら痩せ細っていても180後半の背丈はしっかりとした体重がある。 なのに、長岡はお構いなしだ。 こんなに喜ぶ長岡ははじめて見た。 目がキラキラしていて、いつもと違った美しさ。 それに、本当に嬉しそうな顔だ。 だから、恥ずかしいとか下ろしてくれなんて言葉はでない。

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