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第605話

いよいよ試験前日になると、不安が顔を出す。 どうしても、『実力不足』『圧倒的実習不足』と頭が考えてしまう。 感染症さえなければ…。 何度も飲み込んだ言葉が浮かんでは弾ける。 みんな同じ条件なのは理解しているはずなのに、不安を感じてしまう。 勉強だって沢山した。 応援だって沢山もらっている。 なのに…、なのに…… 無意識の内に肩に爪を立てる。 『遥登』 「…っ」 『今から、そっちに行っても良いか』 「え、それは構いませんけど……。 でも、時間が…」 『寝るより遥登だろ。 見ろ、この人間猫吸ってるぞ。 俺は遥登を吸いてぇ』 画面に見えるように掲げられたスマホの我慢には所謂猫吸いをしている人間が収められていた。 猫が好きな人にとっては至高のご褒美。 生憎、猫は吸ったことがないので良さは半分も分からないが、モフモフで可愛いのは解る。 じゃ、なくてだ。 『このままで良いか。 行くから適当に出てきてくれ』 「ほんとに…?」 『抱き締めさせろ』 悪戯っぽい顔で言われてしまい、眉を下げた。 『すぐに行くから』 穏やかな口調。 だけど、絶対の声だ。 「ありがとうございます。 待ってます」 『ん。 待ってろ』

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