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第608話
なんだか試験中の記憶がぼんやりだ。
始まってしまえばあっという間に終わり、電車に揺られている。
腹減った…
からあげ食いたいな
お弁当にも、からあげが詰まっていた。
大好きなおかずばかりの大きな弁当。
だけど、まだ食べ足りない。
なにも考えず、からあげだけを頬張りたい。
そんな気分だ。
読み上げられる駅名は自宅の最寄り駅のものではいが、三条は駅へと降り立った。
慣れたようにICカードをタッチし、目の前の道を下る。
からあげは食いたいが、もっと大きな欲求がある。
その欲求を埋められるのは1人だけ。
この大きな世界で、たった1人の人。
早く。
早く。
伸びる影がより長くなっていく中を急いだ。
呼び鈴を押すのも久し振りな気がする。
勉強ばかりで、甘えていた。
甘えてばかりいたけど、今日も甘えたい。
施錠の音がし、続いてドアが開く。
溢れる光の中から和らげた恋人が顔をみせた。
その顔はまるで、特別だと言われているかのようで胸がきゅぅぅとする。
あぁ、正宗さんだ……
「お疲れ、遥登」
気が付けば、その胸へと飛び付いていた。
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