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第610話

「ちょっとだけ…、イチャイチャ……」 「ん。 しような」 スーツのボタンが外され、ドキドキと胸が早鐘を打つ。 久し振りだ。 本当に、久し振り。 自慰だけの日々は、それはそれで……まぁ、気持ちが良いが、そんなものよりずっと、うんと大きな快感が目の前にある。 口の中が甘くなる。 強請る目で見上げた先で恋人は綺麗な顔で笑った。 「流石に待てが長かったな。 触んぞ」 「…ん、」 ワイシャツの上から腰を撫でられ、小さく息が漏れてしまう。 だけど、それほどの快感だ。 手が脇腹を通り、前のボタンに触れた。 「…こ、こで…」 「どこが良い? 遥登のこと、めちゃくちゃ甘やかしてぇから教えてくれよ」 言いながらも手は止めない。 言わなければ、ここで。 言えば、そこで。 簡単なことだ。 「…正宗さんとなら、どこでも……」 「あーあー、悪い大人に食われるぞ。 あぁ、もう食われてんだっけ」 ボタンを外す手が首元までくると、ネクタイが緩められる。 1つひとつの行動にドキドキしてしまう。 期待、緊張感。 この胸のドキドキはどっちだろう。 「ベッド、行くか」 ジャケットが床に落ちるも構わず寝室へと向かった。

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