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第627話

「シャワー、ありがとうございました…」 「ん。 コーヒー飲むか?」 下半身のローションを洗い流し終わり部屋へと顔を出すと、綺麗な笑みが迎えてくれた。 本当に顔が良い。 先程の雄の顔は微塵もない。 「ありがとうございます」 「牛乳入れるか?」 「あ、このままで大丈夫です」 受け取ったマグはしっかり冷たい。 それをしっかりと握り、行儀悪く経ったまま1口飲んだ。 「すっかり甘くねぇのも飲めるようになったな」 「……正宗さんのもらってますから」 「俺のせい?」 「正宗さんのお陰です」 好みや選択肢が拡がるだけで、世界は別の見え方があると知れる。 大学推薦の時に、長岡が説いてくれた“選択肢”。 それがあるかないかでは、ちょっとだけ世界がかわる。 例えば、甘くないコーヒー。 その美味しさを知れば、惹かれるのは当然。 「そういうとこなぁ」 くしゃくしゃと頭を撫でる恋人だってそう。 甘くて良いにおいで、だけど時々すごく刺激的で。 そんな恋人にぞっこんだ。

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