629 / 699
第629話
「んまぁ」
「やっぱ高けぇのはうめぇな」
美味しい素麺だが、喉ごしが最高に良くて最早飲み物だ。
つるつるっと、いくらでも腹に入る。
どうやら、亀田がお中元として送ってくれた物で、一緒に─別の箱で─薬味も送ってくれたらしい。
訪れたのが丁度良いタイミングらしく、茗荷や葱と共に有り難く頂いている。
家庭菜園で収穫した夏野菜も沢山同梱されていて、それで作った焼き浸しも美味しい。
噛むとジュワッと油と出汁が溢れ出てくる。
最高の食事だ。
「しあわせです」
「こんなんでしあわせなのか。
もっと、溺れるくらいしあわせにしてやんのに」
「それは溶けちゃいます」
へちゃっとした笑みが部屋に拡がる。
たったそれだけのことで、2人はうんとしあわせだ。
「これでやっと休めるな」
「はい。
弟も沢山我慢してくれましたから、沢山甘やかさないと」
「弟だけ?」
「正宗さんもです」
「どうやって甘やかしてくれんだろうな。
楽しみにしてる」
2人で散歩も良い。
また、夜中に買い食いも。
そんなことに笑ってくれる長岡には、本当に沢山お世話になった。
勉強だけではない。
精神的な支えにもなってくれていた。
1本の目印があるから、道を間違えない。
それが、どんなに心強かったか。
きっと長岡本人は分かりはしないだろう。
三条は座ってる位置をずらし、長岡の腕にくっ付きそうなほど近付いた。
「正宗さん、大好きです」
「うん。
俺も大好きだ」
ともだちにシェアしよう!