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第629話

「んまぁ」 「やっぱ高けぇのはうめぇな」 美味しい素麺だが、喉ごしが最高に良くて最早飲み物だ。 つるつるっと、いくらでも腹に入る。 どうやら、亀田がお中元として送ってくれた物で、一緒に─別の箱で─薬味も送ってくれたらしい。 訪れたのが丁度良いタイミングらしく、茗荷や葱と共に有り難く頂いている。 家庭菜園で収穫した夏野菜も沢山同梱されていて、それで作った焼き浸しも美味しい。 噛むとジュワッと油と出汁が溢れ出てくる。 最高の食事だ。 「しあわせです」 「こんなんでしあわせなのか。 もっと、溺れるくらいしあわせにしてやんのに」 「それは溶けちゃいます」 へちゃっとした笑みが部屋に拡がる。 たったそれだけのことで、2人はうんとしあわせだ。 「これでやっと休めるな」 「はい。 弟も沢山我慢してくれましたから、沢山甘やかさないと」 「弟だけ?」 「正宗さんもです」 「どうやって甘やかしてくれんだろうな。 楽しみにしてる」 2人で散歩も良い。 また、夜中に買い食いも。 そんなことに笑ってくれる長岡には、本当に沢山お世話になった。 勉強だけではない。 精神的な支えにもなってくれていた。 1本の目印があるから、道を間違えない。 それが、どんなに心強かったか。 きっと長岡本人は分かりはしないだろう。 三条は座ってる位置をずらし、長岡の腕にくっ付きそうなほど近付いた。 「正宗さん、大好きです」 「うん。 俺も大好きだ」

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