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第631話

冷房が効き、恋人のにおいと車の振動と、満腹なのも加わりうとうとしてくる。 試験への緊張や、連日の試験対策。 睡眠時間は二の次だったのは否めない。 それが、ここにきてすべてほどけたらしい。 「眠いな。 寝て良いぞ。 着いたら起こす」 「眠くないです…」 「そうか。 アイスは食えるか?」 「食べれます…」 低く落ち着くトーンの声が、今は子守唄のようだ。 安心する。 無防備になれる。 それすら、ふわふわも毛布だ。 「正宗さん、なにか話しませんか」 「良いぞ。 なに話す?」 「正宗さんの、好きなこと」 正宗さんの好きなこと、古典と猫 あと、俺なら良いな… 「俺の好きなことか? そりゃ、遥登と一緒にいることだな」 古典でも猫でもなく、最初に口にしてくれたのは自分。 ふにゃふにゃと顔中の筋肉を緩ませながら照れた。

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