635 / 699
第635話
駐車場からの道すがら、向こうから影が伸びてきた。
嬉しそうな顔。
それだけで、世界中のしあわせを願う。
顔も知らない誰かさえ、しあわせであってくれと。
それほどまでに自分を満たしてくれる子が、大きな荷物を持って駆けてきた。
「正宗さんっ、こんばんは。
約束の花火です」
「覚えて…るか。
遥登だもんな」
「はいっ」
にこにこと屈託なく笑う恋人には敵わない。
こういうことをサラッと出来てしまう格好良い自慢の恋人だ。
小さな約束のつもりだった。
だけど、三条にとってはそうではなく、大切な約束だった。
それが、とても嬉しい。
「それから、コンビニでケーキも買いましょう。
誕生日なんですから」
「じゃ、今日は楽しませてもらうな」
「お任せくださいっ」
今日は8月26日。
長岡の誕生日。
ともだちにシェアしよう!