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第637話
シュバッと音と共に蝋燭の火が花火へと移ると、火薬のにおいと鮮やかな花が咲いた。
「綺麗ですね」
「あぁ。
すげぇ綺麗だ」
花火なんて20年以上してこなかった。
小学生の頃はそれでもしていたが、高学年になるに連れ本の魅力にどっぷりと浸かり離れていった。
そんな遊びを、長い時間ぶりにしてみると案外楽しいものだ。
その大きな要因は、隣でふにゃふにゃ笑う恋人。
この子とならなんだって楽しくなるから不思議だ。
「これ、レストランとかでケーキに刺さってるやつみたいです!」
「言い得て妙だな」
「でも、なんでケーキに花火なんでしょう…?
蝋燭の方が数字とかの形あるのに」
「蝋燭より派手だしな。
来年の遥登の誕生日用にとっておくか?」
えー、と言いながらも嬉しそうな顔をする。
この顔を見られることが、なによりの誕生日プレゼントだ。
本当にしあわせで溢れている。
花火の火薬で三条を彩る光がかわる。
どの色もとても良く似合っている。
太陽の下も、月明かりの下も。
「遥登」
「はい?」
「愛してる」
コロコロかわる表情も、笑い方も、なにもかも高校生の頃と同じはずなのに、あの日よりもっとずっと好きだ。
毎日まいにち、好きが昨日を上回る。
飽きるなんてことはなく毎日好きだ。
こんな気持ちさえ、はじめてだ。
「俺も、愛してます。
だから、今日は目一杯甘やかせてください」
「その言葉、後悔すんなよ」
「しませんよ。
今日は特別な日ですから」
次はこれをしましょう、と手渡された花火もまたそれはそれは綺麗だ。
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