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第639話

花火を持つのとは逆の手──繋いだ手を撫でる親指がいやらしい。 “そういう”触り方だ。 周囲に誰もいないことが、2人を大胆にしていく。 「…正宗さん」 「んー?」 火を使っている時に危ない。 だけど、言ったらやめられてしまう。 手が離されるかもしれない。 それは、嫌だ。 触れられていたい。 もっと、触れていたい。 大好きな人だから。 当たり前の欲だ。 「…んーん」 「花火、綺麗だな」 「はい」 淫らな空気に飲まれ、花火どころではない。 先に動画を撮っておいて良かった。 この空気では、なんとなくスマホを翳しにくい。 花火がほぼ同時に落ちるとぼんやりとした暗闇が2人を隠した。 ドキドキと五月蝿い心音が伝わってしまいそう。 けれど、伝わったら自分がどれほど愛しているのかも一緒に伝わるだろうか。 それなら、伝えたい。 この気持ちも、頭の中も、長岡でいっぱいだって。 「正宗さん…」 ぎゅぅっと首に腕を回し抱き付く。 夜が隠してくれるから大丈夫だ。 「誘っても、良いですか…?」

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