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第641話

誂え向きのホテルという印象は拭えないが、 「あ、さっきの花火持ってきたら良かったです」 「火災報知器反応すんぞ」 「あ…」 緊張のせいか、いつもの三条ならすぐに分かりそうなことに気が付いていない。 これは、余程のことだと思いつつも、らしくない姿の恋人をしっかりと目に焼き付ける。 「ま、座るか。 花火は、また来年の楽しみにしとく」 「はいっ。 来年は必ず」 「ほら、歌うたってくれよ。 誕生日のやつ」 力の入った頬が、ふにゃぁと緩む。 そのやわらかいこと。 愛おしいっていうのは、この気持ちだ。 毒が抜けようが、牙が抜けようが関係ない。 この恋人の隣にいられるなら、そんなものは喜んでくれてやる。 「はいっ」 動画サイトで音楽を流しながら、幼い子供にするように誕生日を祝ってくれる恋人との毎日の方がうんと意味がある。 「お誕生日おめでとうございます」 「ありがとな」 「大好きです」 清潔なにおいに抱き締められ、しあわせに目を閉じた。 ここがラブホテルだなんてどうでも良い。 今は、この子が優先だ。 抱き締め返し、頬を寄せる。 なんてしあわせな誕生日だ。

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