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第659話
大きな欠伸をひとつ。
画面には誰も映っていないから出来ることだ。
だけど、その画面にはすぐに人影が映る。
『あっつ…』
「おかえりなさい」
『悪い。
待たせちまったな』
頭から被ったタオルで乱暴に髪を拭う姿に男を感じる。
いや、恋人は男だ。
れっきとした男。
陰茎だって……受け入れているし、舐めたし、知っている。
そうではなく、色気に近いものだ。
纏う空気感や雰囲気、そういった類いのもの。
「いえ。
その間に髪乾かしたりしてましたから」
『水分は?』
「飲んでます」
『ん』
長岡も先ほど購入したお茶に口を着けた。
8月も終わりだというのに、暑い日ばかりが続いている。
それどころか40℃近い気温を記録し、本当に湯だりそうだ。
水分はいくらとっても足りない。
そんな気さえする。
「正宗さん、お願いがあるんですけど良いですか…?」
『なんだ?』
「今日、正宗さんの部屋に行っても良いですか」
『構わねぇよ』
「一緒に晩ご飯…」
『勿論』
「夕方、行きますっ」
『んじゃ、残業しないで定時で帰る』
それにしっかりと頷くと嬉しそうに長岡が笑う。
嬉しいのは自分の方なのに。
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