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第660話
「おかえりなさい」
玄関を開けると笑顔が咲いた。
残業なしの定時の帰宅をし、見上げた部屋は朝とかわりない。
だけど、部屋へと到着するとその違いが顕著になる。
「ただいま」
1つは、恋人がいること。
それから朝消したはずの冷房が効いてること。
朝より部屋が綺麗になっていること。
食事の美味そうなにおいがすること。
「誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
手洗いをする背中にあたたかな体温が触れる。
駐車場から部屋までの道程で汗をかいた。
人の体温なんか鬱陶しいだけのはずなのに、その相手が心を許した人だというだけで気持ちは全く違う。
「大好きです」
本当に誕生日様々だ。
「俺の方が好きだけどな」
「また子供みたいなことを…。
俺に決まってるじゃないですか」
「生徒強姦したんだぞ?」
「……」
「ははっ。
勝ち」
あの日から続く日々は、とてもしあわせなものへとかわった。
それでもかわらないのは三条に対しての気持ち。
「訴えなかった俺の勝ちですよ…」
「痛てぇこと言うな…」
「へへっ。
俺しか言えませんから」
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