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第663話
「すげぇ美味い。
やっぱ、遥登が食わせてくれると美味いな」
「…良かったです」
「遥登も食わせてやるから、口開けな」
チョコレートケーキの皿を手にすると1口分を掬い、きゅっと上がった口元へと差し出した。
すぐに口が開かないのは想定内。
というよりは、これが通常状態だ。
「でも…」
「嫌か?」
嫌ではない。
恥ずかしいだけだ。
そんなの知っている。
理解していて、しているんだ。
だって、これも甘やかしだ。
なにも自分を甘やかしてもらうことだけが甘やかしではない。
恋人を甘やかすことも、また甘やかしなんだ。
ジッと見詰めてくる目を見返し、微笑む。
三条はこれに弱い。
「…いただきます」
パクッと食い付く姿の可愛いこと。
「もっと懐けよ」
「これ以上って、どんなのですか?」
「んー、そうだな。
遠慮がもう少し減ったら嬉しい」
「…難しいです」
「だから、懐けよ」
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