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第669話
満腹…とはいかないが、腹も満たされた。
やっぱり、長岡と食べるご飯はとびきりに美味しい。
車外に出ると潮のにおいを肌寒い風が運んでくる。
「寒くねぇか」
「はい。
大丈夫です。
正宗さんも寒かったら言ってくださいね。
すぐに戻りますから」
「遥登があっためてくんねぇの?」
「え…」
かぁっと顔がアツくなる。
あたためるって、あたためる…。
“そういうこと”を想像してしまう。
だって…。
だって……。
すると、すぐに綺麗な顔が悪戯気に崩れた。
「ほんと、可愛いな…」
くくっと笑うその背中に、またからかわれたのだと知る。
「またからかいましたね…」
「いや、遥登があっためてくれんなら城行こうぜ」
「城って…」
「大人の城」
「ホテルじゃないですか…」
「大人の遊ぶ場所だろ」
追い付き、その顔を覗き込む。
やっぱり楽しそうな顔だ。
マスクをしていたって分かる。
季節外れになった海を背景に笑う恋人の小指を握り締める。
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