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第671話
遠くに見慣れた赤い四角が見えた。
すぐに指差し知らせる。
「あれ、自販機じゃないですか?」
「お。
やっと見付けたな」
風が入り込まない車内だが、それでも少しばかり冷える。
元々体温の低い長岡が心配だったので早く見付けられて良かった。
羽織を着ていないので上着を着ていないのはお互い様。
心配するのも同じだ。
なのに、長岡は自身のことには無頓着。
風邪をひいたら大変なのはどっちだ。
漸く見付けた自動販売機の横に、車はゆっくりと停車した。
「なに飲みてぇ?」
「俺が買ってきます。
こっちの方が近いですし」
「…じゃあ、甘えようかな。
コーヒーお願いします」
「はい。
待っててください」
長岡は優しい。
優しいから自分が買いに出ようとする。
寒いから自分が行く人だ。
助手席の方が近いのも本当だけど。
あたたかいコーヒーとミルクティーを購入し、すぐ戻る。
綺麗な笑顔が出迎えてくれるので得役だ。
「お待たせしました」
「ありがとな。
あったけぇ」
「あったかいですね」
シートベルトを嵌めようとする手に大きなものが重なりそちらを見た。
「外、寒かったろ」
「平気ですよ。
すぐでしたし、飲み物もあったかいのですし」
「そういうとこな」
「好きになってくれますか?」
「あぁ。
すっげぇ好き」
「得役です。
また、俺が買いに行きますね」
「次は俺の番だ」
ほら、優しい。
だけど、この優しい恋人を独り占め出来るのは自分だけ。
いつもよりにこにこした顔で三条は首を振った。
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