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第673話

お迎えに訪れた保育園は、いつ来てもちっちゃい。 机も、椅子も、ロッカーも。 ドアまで小さく見えてくる。 15年程前に通っていたはずなのに、こんなにサイズに違和感を覚えるなんて。 「はうっ!」 「綾登。 帰ろ」 「おたたづけ、するっ」 「うん。 待ってるよ」 先生達がにこやかな顔で挨拶をしてくれ、それに答えながら末っ子の支度を待つ。 他の保護者には「おかえりなさい」と声をかけるが、いまだオンライン授業の続いている三条には「こんにちは」と言葉をかえてくれているのを知っている。 1日無限体力の元気の塊を相手にして、更にはこの気遣い。 本当に先生とはすごい職業だ。 「今日、お絵かきしたんですけど、これ。 綾登くんが描いたんですよ。 すごく上手に描けたから、お兄さんにあげるんだって言ってました」 「あ、どんぐり。 この前、公園で拾ったんです。 楽しかったんですかね」 「お兄さんと一緒に拾えて嬉しかったんだと思います。 綾登くんも、お兄さんもにっこにこですから」 お絵かき帳に描かれた絵を見ながら、簡単な連絡を聞く。 今日も1日元気に遊べたようで安心だ。 お絵かきも楽しくし、先生からも褒められる。 自分の弟のことだが、嬉しい。 にこにこと話を聞いていると背中に衝撃が走った。 それと同時に、よじ登ろうと小さな身体が動く。 「おわったよ!」 「出来た? じゃあ、先生とみんなにバイバイしような」 「せんせ、ばっばーい!」 「綾登くん、バイバイ。 また明日ね」 小さな手を一所懸命に振る弟と手を繋ぎ、小さな教室を後にした。

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