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第674話

「きょうのおやつ、おいしかった」 「美味しかったのか。 おやつが美味しいと嬉しいな」 「うんっ!」 小さな手を握り、自宅へと歩いて帰る。 弟の歩幅に合わせてゆっくりと。 暑さも落ち着き、歩いて帰るのも楽しい。 あれを見たり、これを見たり。 弟の視線からだと世界はとても大きく見えるから。 夏休みが終わり、また勉強──と言っても試験勉強漬けの夏だった──の日々。 それはそれで知らないことが知れて面白いのだが、机にばかり向かっていると散歩が気持ち良い。 しかも、大好きな弟と一緒なら殊更だ。 「そうだ。 さっき、先生から絵もらったよ。 俺のこと格好良く描いてくれたんだな」 「みた?」 「見た。 ちっちゃいどんぐり見付けたもんな。 もう少し秋になったら、また拾いに行こうな」 「やくおく!」 「約束」 此方を見上げた綾登は、嬉しそうにブンブンッと手を振った。 可愛い笑顔に三条もにこにこと同じ顔をする。 「また飾るな」 「ほんとっ! うれし!」 「どこに飾ろうかな」 「んへへっ」 両親がそうしてくれたように、愛情には愛情を。 それに包まれ大きく育って欲しい。

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