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第675話
その知らせはあまりに突然だった。
洗濯物は明日で良いか
遥登と通話しながら飯食って……
クタクタになった金曜の放課後。
今週は月曜が休みだった分、楽な筈なのだが、反面ダラけが抜けない。
ま、そんなのは生徒達も同じだ。
みんなどこか呆けた気持ちで授業を受けていた。
そして、ソワソワと金曜日を待ち望んでいた。
明日は遥登が来るから部屋片付けとかねぇと
本纏めておけば良いか
階段を登りきった所で部屋の前に人影が見えた。
細くて長い。
顔を確認しなくてもシルエットで分かる。
「遥登。
合か」
「合格してました」
「ぎ……」
今、なんて……
「多分……。
あの…急に日本語が読めなくなってしまって、確認して欲しくて来ました…」
手渡されたのは9年前に自身にも届いた“それ”。
開けられている封筒の中から紙を取り出し、心の準備は良いのかと目を見れば頷かれる。
どちらも声はない。
ただ、静寂だけが広がっていた。
自身の時は、特別教員になりたいという思いもなかったので緊張などしなかった。
だけど、今は違う。
緊張している。
大切な三条の夢が叶うかどうかがココに記載されているんだ。
胸がやけに早く鼓動を打つのがリアルだった。
取り出された書類には“A”の文字。
合格。
「合格」
「本当に…?」
「本当だよ。
おめでとう」
人目も気にせず細い身体を抱き締めた。
高校からずっと沢山の勉強を頑張っていた。
沢山、沢山だ。
勉強以外にも資格をとったり、研修を受けたり、ボランティアをしたり。
それが途中からは足を掴まれた。
1番悔しかったのは本人だ。
諦めなくてはいけない事が増え、我慢せざるおえない事があって、それでも負けずに踏ん張っていた。
その結果だ。
芽が出て、蕾が膨らみ、綻んだ。
そして、咲き誇った。
近くで見ていたから尚更嬉しい。
世界中に自慢したい。
大切な恋人の、
大切な教え子の、
大切な遥登の夢が叶った瞬間を見られる事が出来てどんなに嬉しいか。
どんなにしあわせか。
見せてくれて、ありがとう。
隣にいさせてくれて、ありがとう。
「正宗さん、俺……合格しました」
「うん。
おめでとう。
……おめでとう」
噛み締めるように伝えた祝福の言葉。
そんな言葉では足りない程の想いをのせた。
「夢みたいです」
「夢じゃねぇよ。
来年から教師になれんだよ」
親が子にするようにサラサラした髪に撫で、抱き寄せた。
恋人がするように愛を伝える。
スリスリと甘える可愛い恋人。
その頭に自分の頬も寄せた。
「遥登」
「はい」
へにゃぁと笑うその頬を両手で掴む。
そして、額をくっ付けた。
今はまだキスは出来ないから。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
三条は世界で1番好きな顔を向けてくれた。
長岡もそれに同じものを返す。
おめでとう。
俺の自慢の遥登。
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