678 / 696
第678話
ベランダから外を眺めていると見知ったキャップが目に入った。
細い身体に、いつもキャップ。
手にはエコバック。
つい口元が綻んでしまう。
一方的でも会えて嬉しい。
それに、あの子の目的地はここだから。
いつ気が付くだろうか。
気が付かなくて、それはそれで良い。
なんてことを思いながらベランダの柵に肘をつき、そこに顎をのせ眺める。
角を曲がり真っ直ぐに此方に歩いていると思いきや、不意に顔を上げた。
視線が合う。
長岡はヒラヒラと手を振った。
すると、マスク越しでも分かるほど嬉しそうに笑った。
かわい…
三条はマスクを指で下ろすとパクパクと口を開け、それからすぐにスマホをいじった。
手に持ったスマホが震えたのはすぐのこと。
『おはようございます』
走るスタンプもポンッと送られてきて、返事をするより早く三条が走り出した。
いかにも三条らしい。
秋の空気を肺いっぱいに吸い込み、吐き出す。
楽に息が出来るのは恋人のお陰。
あの子が部屋を訪れるまで、あと少し。
ともだちにシェアしよう!