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第692話
「すみません。
すっかり話し込んでしまって」
「いえ。
長岡先生の話も聞けて楽しかったです」
「こちらこそ、長岡くんの話が聞けて嬉しかったです」
恋人の学生の頃の話しは本人以外から聞く機会が圧倒的に少ないので嬉しい。
三条の顔はマスクで隠れてはいるがホクホクだ。
それに、そろそろ学校を出発すれば最寄駅に着く頃には電車もやって来るだろう。
それに乗り遅れてもバスもある。
あたたかな部屋で時間を費やせたのもラッキーだ。
「これ、僕の名刺です。
私用の携帯番号もありますから、院に興味が出たら連絡ください」
「はい」
「今日は本当に助かりました。
気を付けて帰ってください。」
「では、失礼します」
久し振りの大学というだけで気分は新鮮なのに、まさかの収穫。
それにしても、9年前のことをよく覚えていた。
あの顔立ちなら記憶に残るだろうが、それにしてもだ。
それほど、色濃く残っているなんてどんな生徒だったのか。
受け取った名刺をリュックの中の文庫本に差し込み、担ぎ直す。
学校を後にする足取りは軽い。
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