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第700話

カッカッとチョークと黒板のぶつかる音と共に、セーターの袖口が白く汚れていく。 寒いからとセーター引き上げ過ぎると、すぐにこれだ。 今、払ったところでまたすぐに汚れる。 それなら、あとから払えば良い。 「大鏡と同時期の作品には、栄華物語という作品があります。 どちらも、藤原道長をことを描いた作品ですが、この2つには大きな違いがあります」 日本語の美しさは触れてみなければ分からない。 近くにありすぎるからだ。 直接的表現や比喩比喩。 控え目に添えられることもあれば、ガツンとぶつかることもある。 それでも、カタチをかえ、意味をかえ、今に伝わっているのはその“美しさ”に魅了された人が多くいるからだ。 恋人も、自分も、それに魅了された。 「それは、内容です。 大鏡には批判する内容もふくまれていますが、栄華物語は絶賛する内容ばかりです」 ほんの少しで良い。 上澄みだけでも良いから、その美しさに触れて欲しい。 自分達が生まれた国の言葉であり、自分達が愛する人達が使う言葉だから。 そして、どうせ使うのなら良いカタチが良いと願う。 難しいことはない。 伝わらない願いを込めながら、長岡は美しい日本を読み上げていく。

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