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第701話
買ってきた惣菜を脇に手洗いうがいを済ませると、恋人へとメッセージを送る。
そして、すぐにスタンプが返ってくるので、カメラを起動させた。
『お帰りなさい』
「ただいま」
自宅に帰ってきて早々の笑顔に、仕事の疲れはどこかへ消えていく。
思春期なんて知りませんとばかりの屈託のない顔。
高校生の時より低くなった声。
三条をつくりあげるすべてが好きだ。
禿げても好きな自信しかない。
「うあー、つっかれた」
『お疲れ様です』
「疲れたけど、やっぱ古典は良いよな。
古典だけ教えててぇ」
楽しそうな顔に、朝のことを思い出した。
「スクショタイムすっか」
『っ!
本当に良いんですか…?』
「減るもんじゃねぇしな」
ソファ前からカメラの位置を調整し、スーツのボタンを手を掛ける。
『…ぁ』
「なに喘いでんだよ」
『あ、えいではいません…。
なんか、今のえっちだったので、声が……もれただけです…』
「えっちなのは遥登だろ。
えっち」
恨めしそうな目をしてもスクショする手は止まらない。
なら、サービスだ。
わざとらしくネクタイを緩め、首元を緩める。
そして、三条の好きな声で名前を呼んだ。
「はーると」
『動画にすれば良かったです…』
「いつでも言ってやるよ」
『そのえっちな格好なのも良いんです…。
勿体ない…』
「勿体ないってなんだよ」
時々、年相応のことを言う。
それが面白くて、嬉しくて、クスクスと笑った。
三条と居ると、いつもの世界がより鮮やかに見える。
楽しくなる。
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