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第711話

「たっだいまぁ」 可愛らしい声に目を覚ます。 傍らのスマホに手を伸ばし時刻を確認するより早く、リビングのドアが開かれた。 「ただいまぁ」 「おかえりぃ」 「はぅ、あったかい」 「だろ。 炬燵で寝てたからな」 とととっと駆けてきた弟が抱き付くと、外のにおいがした。 「ただいま。 授業終わってたの?」 「今日は午後から休み。 あれ、朝言ったよね」 「言ってた。 やだ、歳から」 買い物袋を持ったまま台所へと行き、その後ろを更に綾登が続いた。 「みっちゃん、なんさい?」 「36歳よ」 「さんじゅ、ろっく」 えげつない嘘吐いてる… まったく長男をいくつの時に産んだ設定なのだろうか。 いや、年齢的にはいけなくはないのか。 いつか、長男と三男の歳の差を考えたら分かることだ。 それまで母親の歳については言及しないつもりだ。 女性はいくつ歳を重ねても美しい。 けれど、大切なのは本人の気持ちだ。 「けーき、たいへんね」 「数字の形の蝋燭があるから大丈夫だよ。 綾登のお誕生日もそうしたでしょ」 「そっかぁ」

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