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第712話

蜜柑を手にしたまま、綾登はじっと動画を観ている。 剥かれることすらない蜜柑。 潰さないように時々盗み見るが、当の本人はそんなことすら忘れられているらしい。 背後の台所では母親が夕食の支度をしている。 今日は豚汁らしいので今から待ちきれない。 そんなことを考えつつ、三条は炬燵に半身を埋めたままスマホを弄っていた。 季節は秋から冬へと移ろい、肌寒いから寒いへと変わった。 春からは教師として働きはじめることになり、こんなにダラダラした生活をおくれるのもあと僅か。 存分にダラダラとした生活を喫する。 だが、単にダラダラしているだけではない。 カレンダーは残り1枚。 嬉しい反面、もう1年が終わるのかと驚く季節だ。 つまり、クリスマスが近い。 クリスマスといえば、恋人。 うーん、なんにようかな 正宗さん、あんまり物欲ないからな トイレットペーパーとかの方が喜びそうなんだよなぁ 堅実といえば堅実。 だけど、そうではない。 特別な日くらいは、特別なことをしたい。 毎日の平均点も大切だが、時々は満点をとって喜んでもらいたい。 アクセサリー似合いそうなのに身に付けないし… プレゼントしたらつけてくれるかな 開いたページには男性用アクセサリーが煌びやかに輝いている。 あの顔立ちならどれも似合う。 恋人なことを差し引いても似合う。 これはこれで困ってしまう。 けど、意味のあるアクセサリーというのは心が惹かれてしまう。 自分が嬉しかったように、長岡にも同じ気持ちを手渡したい。

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