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第723話

「いただきます!」 「いただきます」 手を合わせてから、マグに手を伸ばす。 砂糖も牛乳も入れていない長岡と同じもの。 その香ばしいにおいにワクワクが込み上げてくる。 まだ熱いので、しっかりと冷ましてから一口飲んだ。 「美味しい」 甘くない。 だけど、薫りがとても良い。 やっぱり美味しい。 苦いだけだと思っていた味が美味しいと思えるようになった。 味覚が大人になったのか、それともこれまでの記憶がそう思わせるのか。 セックスの後に、よく分けてもらっていた。 しあわせな気持ちと結び付き、頭が覚えた味。 恥ずかしいが、嬉しくもある。 「パンも食えよ」 「はい。 いただきます」 次は、クリームパン。 ふわふわのパンに齧り付くと中からクリームが溢れてくる。 たまごが濃いカスタードクリーム。 バニラの薫りも最高だ。 苦くなった口に、クリームが甘くてたまらない。 クリームで甘くなった口に、苦いコーヒーが美味しい。 頬をパンパンに膨らませて食べていると、隣から惣菜パンが差し出された。 「食うか?」 「良いんですか?」 「一口交換」 悪戯っぽい顔に頷く。 「はいっ」 「良い返事だな」 長岡のパンも美味しくて、結局半分こしながら食べていく。 飾らない関係だから出来ることだ。 すっかり馴染んだ家族のような、この空気。 「ん! これ、美味しいです!」 「美味いな」

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