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第726話
大好きな友達のシシによく似た黒猫のアップリケを付けてもらったエプロンを着た綾登は、ピカピカに洗った手を見せてきた。
「みて、ぴかぴか!」
「おー、ピカピカだ。
上手に洗ったな」
むふーっと嬉しそうに笑い、それから次男の元へと行ってしまった。
今日は、綾登が指折り待っていたサンタさんへのプレゼント──クッキー──を作る日だ。
サンタクロースやトナカイ、雪だるまの型も用意はバッチリ。
前日の買い物から、「あーと も いく!」とはりきっていた。
「うし、やるぞ」
「うし」
薄力粉を振るったり、バターは常温に戻してよく混ぜたりと、下準備どころか土台は出来ている。
フードプロセッサーを使えば簡単で、練り過ぎも予防出来るが、綾登がしたいのはそういう物ではない。
それを理解している優登は丁寧に準備し、足元に新聞紙を敷く徹底ぶりをみせてくれている。
1人で作るより、うんと時間がかかる。
粉が溢れたり、捏ねすぎたりもするだろう。
それでも一緒に作ろうと言い、準備を整えた次男は、とても格好良い兄の顔だ。
父も母も、優登が困るまでは手を貸さず口も出さず見守るばかり。
と言っても、両親が居ると思春期真っ盛りの次男が嫌がるので別室だが。
「このたまごを、ここに入れてくれるか?」
「うんっ」
洗い物が増えても、たまごを小分けに皿ひ分け、綾登が入れても一気に入るのを防ぐ徹底ぶり。
「上手じゃん」
「へへぇっ」
「じゃあ、次のたまご入れて」
楽しそうな弟達を見て、三条もにこにこしている。
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